タクシードライバーに転職してまず感じたことのひとつに、タクシードライバーという仕事に対する強い偏見がありました。
実際、自分がタクシードライバーに転職したことを伝えると、その反応はほとんどが好意的ではなく、特に親類からは「何もそんな業種を選ばなくても」と想像以上に強く反対されました。
おなじ運転する仕事でも、タクシー運転手に対する偏見はバスやトラックの運転手の場合と違うようにも感じます。
タクシードライバーがなぜこれほど強い偏見を持たれているのか、正直私には理解できない部分もありますが、実際に就職してみて感じたことを書いてみたいと思います。
タクドラは誰でもなれる?
よく「タクシードライバーなんて免許さえあれば誰でもできる仕事だ」みたいなことを言う人がいますが、現実のタクシードライバーの業務はさすがにそこまで甘くはありません。
二種免許や地理試験はもちろん、基本的な料金システムやメーターの扱いを覚えるだけでも結構大変なのですが、ナビや配車アプリが当たり前になった現在では1台のタクシーにも複数の端末が搭載されるようになり、それぞれに異なる操作を全て覚えなければ路上に出ることすらできません。
またナビがついているからといって道を覚えなくてよくなったわけではありません。最低限の基本的なルートは頭に入れておく必要がありますし、会社によってはほとんど使い物にならない携帯アプリレベルのナビしか入れてないところもあります。ちなみにうちの会社はデフォがYaho●のアプリで、それがあまりにクソすぎたためにわざわざ運転席にマイ携帯をセットしてgo●gleナビ使うドライバー多数という世紀末的状態でした。。。
さらに時間帯によって変わる交通規制やミナミ・キタの乗車禁止時間などタクシー独自の規制を知っておくのは当然として、駅やホテル・病院などの乗り場にはそれぞれに異なるルールがあり、それらも把握しないとそうした乗り場に停めることすらできません。ナビどおりに運転すれば大丈夫、なんてわけにはいかないのです。
また接客や服装に関しても詳細なマニュアルがあり、特に大手系では一般的なサービス業以上のレベルを求められるうえ、日報や納金などの煩雑な事務作業も覚えなければなりません。
少なくとも今のタクシードライバーは、決して「免許さえあれば誰でもできる仕事」などではないのです。
では、これだけの素養を求められる仕事が、どうして「誰でもできる仕事」などと蔑まれるのでしょうか?
タクドラが差別される理由
まずタクシードライバーという仕事に偏見を持つ人の多くが口にする言葉に「雲助」という言葉があります。
これはもともと江戸時代に荷物運搬や籠かきをした人足のことで、こうした人には浪人や博徒のようなやくざ者が多く、このことが今のタクシードライバーという仕事への偏見につながっているという見方があります。
実際、タクシー会社というと今でも中高年の転職の最後の駆け込み寺という面はあり、あまり過去の前歴などにとらわれず採用してくれるケースが多く、また特に地方や一部の中小・個人タクシーにはいまだにヤク〇っぽいあまり態度のよくない運転手もいたりするので、よけいにそういうイメージを持たれやすいという部分は否定できません。
それ以外にも、いくつかの理由が考えられます。
営業運転がクソうざい
タクシーは売り上げをあげてなんぼです。特に都心部で売り上げを伸ばすためには、駅前や病院の乗り場でたむろしてばかりいるわけにはいきません。
幹線道路でも駐停車禁止の交差点ぎりぎりの場所や繁華街の狭い路地にも臆せずゴリゴリ突入し、お客さま(の可能性のある人)のそばでは限界まで速度を落として走行する「営業運転」をしなければなりませんが、これは他の車やタクシーに乗る気のない歩行者にとってはただただ迷惑でしかありません。
このあたり、周囲の迷惑を考えずに無理な車線変更や急停車・減速を繰り返したり、節度をわきまえず横断歩道の真上で停車したり(↑)営業目的で歩行者のあふれる路地へ突っ込むようなドライバーも少なからずいます。
そうした一部の迷惑行為がタクシードライバーという職業そのものへの差別感情につながっている面は否定できないのではないでしょうか。
私の知る限り、こういう「押しの強い」タイプのドライバーは短期的に一定の売り上げは立てるのですが、長期でみると事故や違反・クレームなどのトラブルが多く、結果的にはあまりよい成果につながっていないケースが多かったです。
逆にしっかり長期で稼いでいる上位クラスは決して無理をせず、マナーを守るスマートな営業スタイルの人が主流でした。
歩合給とチップが生む「乞食メンタル」
私個人として一番問題なのは、現在のタクシードライバーの給与体系だと思っています。
タクシードライバーの給与は基本的に歩合給です。会社によって若干の違いはありますが、おおまかに言って売り上げから消費税分(10%)を除いた額の半分ほどが給料(額面)になります。一か月の売り上げが50万円(税抜き)であれば給料の総額は25万、というイメージです。
するとドライバー的には、あるお客さんが2,000円乗ってくれたとすると「ああこの半分の1,000円ほどが自分の給料だな」、という感覚になってきます(消費税分は除外するので実際はもう少し目減りします)。
つまり心理的には「目の前のお客様にダイレクトに自分の収入源を握られている」という感覚になるのです。これはあまり愉快なことではありません。
またタクシー特有の慣習として「チップ」があります。日本では運転手の給料は運賃から出る仕組みなのでチップを渡す必要は本来ないのですが、ときどき「おつりはいらないから」などの形でチップをいただけることがあります。
とてもありがたいのですが、この「チップ」の慣習もなれてしまうと「今度のお客さまはチップをいただけるだろうか」という乞食的なメンタルを生んでしまいます。
私は極力チップのことを考えないようにしていましたが、やはり長距離で荷物の多いお客さまだと多少は期待してしまい、そういう自分のメンタルがいやしく思えてしまったのも事実です。
会社の研修では、「普通に仕事をしてチップまでいただける、こんなすばらしい仕事がほかにあるでしょうか」などと強調していましたが、自分にはむしろ苦痛の種でした。
ていうか、私の場合はチップをいただけたのは1回の出番に一度あるかどうかという頻度で、それも大半は急いでるからおつり(100円未満)はいらないよというケースでした。
トータルではむしろゴネる客に踏み倒されたり小銭を誤魔化されたりしたマイナスのほうがはるかに大きかったです。
あと個人的な感覚ですが、ホテルのドアマンなんかにもタクドラと共通するような雰囲気を感じるのですが、あれも「チップ」みたいな慣習が少なからず影響してるのではないかという気がします。
いずれにせよ「チップ」が労働報酬の一部としてしっかり根付いている海外とは違い、日本では「チップ」=「心づけ、施し」という感覚の方が強く、文化的にそぐわない面があるのではないでしょうか。
チップに関してはともかく、野良営業時代そのままの歩合給や釣銭の自弁なんかについては、さすがにタクシー会社も再考すべき時期ではないでしょうか。
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