私がタクシードライバーに転職を決めたとき、転職サイトやら動画やらの情報からこの仕事に漠然と描いていたイメージがあったのですが、かなりの部分が現実のタクドラ勤務の実態とズレていたことに驚きました。
この部分は今後この業界への転身を検討されている方にも参考になると思いますので、ぜひご一読ください。
なおこの記事はあくまで私個人の経験によるもので、必ずしもすべてのタクシー会社に当てはまるわけではありませんので、念のため。
常時監視される
タクドラというと会社や上司にも縛られず、自分の行きたい場所で自由に稼ぐことができるという野武士的なイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、これはカーナビやドラレコで常時監視下におかれている現在のタクドラには全く当てはまりません。
その辺の底辺ブラック企業でも社員をカメラで常時監視なんてするところはそんなにないと思いますが、現在のタクドラはドラレコで常時撮影されるのがデフォになっています。そして何かつまらない自損事故でも起こそうものなら、たちまちその事故映像が社内で共有され、研修素材にされてしまうのです。肖像権も何もありません。
またGPSによりどこで何分車を止めていたかも常時把握されており、うっかり規定より長く休んでしまうと事務所に帰ってから強く「指導」されます。
また車が停車状態だった場合は、乗り場での順番待ちであろうが実車中のお客様のお戻り待ちであろうが(結構起こります)実際の現場の状況いかんにかかわらず「休憩時間」としてカウントされるドSなシステムでした。
社畜万歳
以前はタクドラと言えば自分の技量で自由に稼ぐことができ、会社にも縛られず自由に働ける仕事というイメージで、私もそういう面に憧れてこの業界に転身したのですが、残念ながら現在のタクドラにはそんな野武士的な自由さは片鱗もありません。
現在のタクドラは(少なくとも大手系では)売り上げの多くの部分を会社のくれる無線配車や法人顧客、アプリ経由の集客に依存するようになり、以前のように経験値や流し方の工夫みたいな個人の技能で稼げる仕事ではなくなっています。
実際、日頃はコロナ以後でも6万、7万と稼いで肩で風を切っているようなベテラン勢でも、会社からの優良案件が干上がった日にはわれわれ新人と大差ない売り上げしか上げていませんでしたから、流しの工夫や経験値なんて本当に気休め程度のおまじないに過ぎません。
つまり稼げるタクドラになりたければ割のいい優良案件をたくさん回してもらえるよう、会社に気に入ってもらうことが第一で、つまり一般企業以上に社畜魂が求められると言っても過言ではありません。
なぜならどの案件を誰に投げるかは全て配車係すなわち会社の一存で決まるからです。
そのためには無事故無違反・ノークレームを通すことはもちろん、新人のうちから割の合わない案件や他のドライバーが嫌がる面倒な依頼も積極的にこなし、車両点検や納金や洗車などの無賃労働もいとわずやる姿を見せること(※ここ重要)が大切です。
そうやって遺憾なく社畜魂もとい愛社精神を発揮できる人だけが、後々ベテランとしてハイヤーや法人などの優良案件を優先的にもらえるようになるわけです。
実質日雇い労働である
まあこれは給料が歩合制なので当然といえば当然ですが、特に新人の内はろくに稼げません。月(13回勤務)の手取りが20万弱、単純に1勤務あたりに換算すれば15,000円とそれほど悪くないようにも見えますが、1勤務あたり優に20時間以上拘束されるうえ、一晩中事故・違反のリスクを背負って運転するのに見合う給料ではありません。
そして一応給与は月額で支払われますが、これは単に日雇いの賃金が1か月後にまとめて支払われているだけで、「1か月あたり」で給与が出る月給制の会社とは根本的に賃金体系が違います。タクドラの給料は「月給」ではなく「日給月給」というのが正しいです。
特に長く月給制の会社で働いていた方にはピンとこないかもしれませんが、この点は実際に働いてみるとかなりメンタル的に違うので要注意です。
世間が土日だの大型連休だのお盆だの年末だの言っていてもタクドラのシフトには一切関係ありません。そもそも休みたくても勝手にシフトが組まれていて、余程でない限り休んだり変更したりもできません。あくまでも月13回の出勤が基本です。
また勤務のシフトは月末になってから次月分を渡されるというサイクルで、それをもらうまで翌月以降の予定が組みづらいというのも地味にマイナスポイントでした。
そして仮に休めたとしても、当然その日のお給料はありません。半年程度勤務するといちおう「有給休暇」なるものがもらえますが、そもそもが歩合給で給料が決まっているので、休暇といっても実質は給与明細の内訳が多少変わる程度です。
実際やってみると分かると思いますが、世間が休みの日に一人で釣り銭ボックスやら何やら満載のリュックを背負い、遊びに行く人だらけの電車に乗っていると何だかみじめで、それだけで鬱になるほどメンタルが削られます。
私はタクシーに乗っている間、祝日のテレビやカレンダーを見るのさえ本当に憂鬱でした。
どれだけ稼げるようになっても所詮現代のタクドラはその日暮らしの日雇いの社畜にすぎないのです。
そして日雇いのカレンダーには土日も祝日も関係ありません。シフトのない日だけが休日です。
営業所は暗くて汚いがデフォ
特に大手系だと本社は都心の一等地のビルにあったりして、面接会場はピカピカのオフィスだったのに、実際に勤務する営業所へ行ってみるとザ・昭和みたいな鉄骨アスベストむき出しの廃屋ビルだったなんてケースがザラにあります。
特に他社を買収して規模を拡大してきたところはこれが顕著で、私が勤めた営業所なんて古い上に長年の増改築で迷路みたいになっており、事務所から鉄骨むき出しの立体駐車場へ行くにも一度3階まで上った階段をまた下りてもう一度5階まで上がるみたいな謎仕様でした。
これ、事務所で常駐する内勤にはそれほど実害はないのですが、毎日車と事務所を行き来するドライバーにとっては悲惨でした。忘れ物などしたときもそうですが、いざ業務を完了してさあ帰ろうという段になっていきなり内勤の人から「〇〇さん、今日のドラレコのデータ取ってきて」なんて言われたときの絶望感といったらありません。しかもそれが結構な頻度で発生しました。正直、内勤●ねばいいのにと思ったことも二度や三度ではありません。てゆうかそういうことは出庫のときに言ってくれ orz
そして更衣室は単なる物置きスペースです。個人のロッカーもありません。着替えをつるす共用のスチールハンガーはありましたが、それだけです。人によっては自分で旅行用のトランクを持ち込んで常設してる人もいましたが、基本誰でも常時出入りできる状態なので、最悪パクられても困らないものしか置けません。
どんな高級ホテルでもお客さまの目に触れないバックヤードの部分は結構いいかげんにできてたりしますが、タクシー会社のそれは感心するくらいに徹底しています。本社と営業車両だけはチリひとつないほどピカピカに磨き上げていますが、それ以外は本当に適当で、ドライバーが使う更衣室や休憩スペースはゴミ溜め同然の有様でした。
転職した当初、私は毎回床やハンガーにも積もった埃のなかで着替えるのが嫌で仕方ありませんでしたが、きれいにしようにも掃除用具すらまともに備えていないような有様でした。
一番いやだったのは駐車場の和式トイレで、わざわざコンクリのブロックで扉を常時開放のまま固定してました。たぶん長居するなということなんでしょうが、あんな小バエだらけのきったないトイレで誰が長居するっちゅーねん。
てゆうか女性ドライバーも一応いるのにあれはセクハラにならないんでしょうかね。そもそも公衆トイレのほうが一千倍きれいなので、私は余程の緊急時以外は使いませんでしたが。
こういう外部の目に触れない従業員スペースにこそ、その会社が従業員のことをどう考えているかの本音があらわになっていると言ってもいいと思います。可能であれば入社面接の際に乗務員の更衣室をチラ見程度でも見せてもらうのもよい判断材料になると思います。もしそれを嫌がるような会社であればそういう会社だということです。
ちなみにわが社のトップはテレビで「タクシードライバーという仕事を誇りを持てる仕事に変える」なんて理想を熱くぶち上げる業界のちょっとした有名人ですが、「埃の間違いなんじゃないの??」って言ってやりたかったですね。もちろん言いませんでしたが。。。てゆうか研修期間を含めて在籍中に一度も見れなかったし(爆
ちなみに新卒の人たちには入社式で直々に挨拶と歓迎会があったそうなので、同じ社員でもDVDの映像だけ流されたわれわれとは扱いにもだいぶ温度差があるようです。
まあ今さら別に会いたいわけでもないですがwww どうでもいいし。。。
出会いはない
この点も(人によっては)重要だと思うので書いておきます。タクシー会社では基本人との出会いなんてありません。
最近は女性ドライバーの活躍を前面に押し出す会社も多く、求人サイトでも「女性が活躍できる仕事」として取り上げられたりもするので、中には「ひょっとしてタクドラに転職したらオレにもいい出会いがあるかも」なんて淡い期待をされる方もあるかもしれませんが、基本そんなものはありません。
本社ならまだしも営業所にいるのはほぼくっさいおっさんだけです。
また仮に運よく営業所に女性がいたとしても、そもそもタクドラ同士が一緒に仕事をしたり話したりする機会自体がほとんどありません。
私の場合結局あいさつ以上の話をしたのは新人研修で一緒になった人(男)と内勤(男)、あとは業務を教わる班長(男)くらいで、特に実際の乗務が始まってからは内勤とのやり取りくらいしか会社の人間と話すこともなくなります。
考えてみればタクドラというのはそれぞれが各自売り上げを立ててなんぼの商売なので、一般の企業のようにチームで仕事をするというような関係ではありません。むしろ他のドライバーは所内で売り上げを競うライバルです。そんな相手と世間話以上の関係を期待する方が間違っています。
ちなみに私のいた営業所でも数十人に一人くらいの割合で女性ドライバーもいるにはいましたが、会社PRに出てるキラキラしたモデルさんのような方は皆無で、実際に見かけたのはいわゆる女性を感じさせないようなタイプの方(※察してくださいww)ばかりでした。
ではお客さまはどうかといえば、基本一度お乗せした方にもう一度巡り合うことはほとんどありませんし、あっても所詮は一介の運転手と乗客の関係に過ぎませんので、映画やドラマみたいにそれ以上の関係に発展することはまずありません。
いわゆる水商売の方を乗せる機会も多いですが、仕事帰りで疲れているのにわざわざタクドラと会話したがるような方はほとんどいませんから、こちらからも会話を振らないのが基本です。
あと新卒で入社してくる女性もいますが、大半は研修期間が終わってしばらくもしないうちに跡形もなく消えてしまいます。まあ中高年のおっさん組にはそもそも縁もない話なのでどうでもいいですが。。。
いずれにしてもこの仕事が女性にとって居心地の良い環境でないのは確かです。求人サイトでは「女性が活躍できる仕事」なんて謳ってたりもしますが現実は厳しいです。女性どころか心臓に毛の生えたおっさんすら半分以上淘汰されるのがタクシーの現実です。
ちなみによく「3年後定着率90パーセント以上」とか謳ってますが、あれは絶対に数字のトリックです。そうでなければ営業所はたちまちドライバーでパンクしてしまいます。だって私の営業所だけでもほぼ毎日面接やって毎週くらいのペースで新人が入ってましたから。それで一向に人がパンクしないということは入ってきた分だけどこかへ消えているということです。まあ大方「自己都合で辞めた人は分母に入れない」とか母数を操作してるんでしょうね。
何にしてもタクシー会社で活躍できるのは上に立ってるトップだけ、現場は常にブラックすれすれの搾取労働というのがこの業界の偽らざる実態です。
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