転職先としてタクシードライバーを考えていらっしゃる方の中には、タクシードライバーを単に歩合給の会社員だと考えて応募しようとされている方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うとこれは大きな間違いです。
この部分を勘違いしたままタクドラに転職すると、後々いろんな部分で後悔することになります。タクシードライバーは会社員ではなく全くの個人事業主というのが実態ですので、その点について説明したいと思います。
釣り銭は自分で用意する
私がタクシードライバーに転職して一番違和感を感じたのがこの部分です。タクシードライバーは営業に必要な釣り銭を自分で用意しなければなりません。そしてその残高の管理も完全に自己責任です。
仮に過不足が生じても会社は一切面倒なんて見てくれません。残高が不足しても自己責任、仮に料金を踏み倒されたり盗難にあったりしても自己責任、会社は一切補填なんてしてくれません。
タクシー業界では当たり前の慣行ですが、他にこんな前近代的なことをしている業界なんてあるでしょうか? スーパーやコンビニのレジ係が自分で釣り銭を用意したり不足分や打ち間違い分を補填するなんて(まともなお店では)あり得ないですよね。
つまりタクシードライバーは給与を得て働くという形式ではあっても、実質は「会社から車を借りて営業する」という個人事業主的な性質の強い働き方なのです。
ちなみに私の会社では洗車に必要な道具すら用意されていませんでした。拭き上げ用のクロス類なんかも自弁で、毎回(荷物になりますが)使ったら家に持って帰って洗濯、の繰り返しです。また前の記事でも書いた通り、そもそも洗車時間は労働時間にも算入されません。
内勤いわく「会社からお借りした車で営業するのだから、仕事が終わったらきれいに洗って返すのが当たり前」だそうです。なるほどと思いました。つまりはそういう思考回路で成り立っている業界なのです。
ただ、それで納得する素直な人もいるのかもしれませんが、会社員脳の抜けきらない私なんかはこの車ってそもそも誰の資産なん?? 会社資産の維持管理の問題じゃないの??って思ってしまいますwww だから続かなかったんですが。
要するに根本的に労働に対するとらえ方が普通の一般的な会社とは異質な業界ですので、他業界から転職する場合はこの点を最初に理解しておかないと後々トラブルの元になります。
「車をお借りして営業させてもらう」、つまり早い話が「鵜飼いの鵜」です。
表現は悪いですが、これがタクシー運転手の労働関係の偽らざる本質であり、間違っても普通の会社員と会社のような労使関係ではないということは知っておくべきです。
最近は大手各社が求人サイトに広告を出したり新卒採用に重点を置くなど、これまでのタクドラの野良自営職的なイメージを払拭しようとPRにやっきになっていますが、現実問題としては釣り銭の自弁みたいな前時代的慣行を改める気配さえみじんもなく、やはり「タクドラは会社員ではなく個人事業主」というのが現場の実態です。
この他、無線などで配車があった場合は営業先から客先へ直接連絡するように指示されるケースも少なくないですが、会社からは携帯の貸与なんてありませんので、当然自分の携帯を使うほかありませんが、こういう通信費もびた一文支給されません。完全自腹です。
これ、電話代はともかく個人情報ダダ漏れなんですけどいいんですかね・・・お客さん的にも運転手がマイ携帯で電話してくるのって情報管理的にあんまり気持ちのいいものではないと思うのですが。
あと携帯に関しては乗務中にシフト変更とか内勤側の不要不急の用件で会社からバンバン直電してくるのがマジでうざかったです。。こっちは運転中だっちゅーの。しかも個人の携帯だし。
会社はドライバーを信用してない
釣り銭の件もそうですが、特に納金に関してタクシー会社は徹底的にドライバーを信用していません。
たとえば最近ではクレジットカードの他、イコカ、スイカなど交通系ICカードや電子マネーに加え、ペイペイ、楽天ペイなどのアプリ決済なんかもあって、現金以外のデータ決済がよく使われますが、現金以外の場合は全て一件一件レシートと控えを車内でプリントアウトした上で、さらに会社に戻ってから一件ずつ手書きの紙伝票を作成します。
多い時はそんなのが十何件もあったりして、ホントうんざりします。
いやこんなことしなくても全部事務所のPCにリアルタイムでネット経由でデータ入ってるんだから、それ見て事務の方で勝手にチェックしといたらええですやん!!
でもダメなんですね、やっぱりその決済をした時点の内容を紙=物理的な証拠を作らせて確認しないことには、データだけでは何か改ざんとかされてるかもしれないし、という発想なんですね。警察かよwww
同じ理由でお客様がチケットを利用されたときも、金額を必ずお客様にご記入いただくのは当然として、その決済時のレシートも必ず(物証として)添付して提出するよう指示されてました。
あとごくまれに運転中に誤ってメーターに触れてしまい誤作動させてしまうケースがあるのですが、こうした場合でも基本的にはメーターの取り消しは認められません。たとえ誤作動でもメーター通りの売り上げがあったものとして入金させられます。
というのはそうした手口で本来会社に入金すべき売り上げをごまかし、差額を運転手がポケットに入れるという手口が以前に頻発していたかららしいのですが、これだけドラレコ全盛の中でそんなアホなことやるやつ、もうおらんやろ!!
でもいくら時代が変わろうが会社にとってはやはりメーターの方が絶対神聖侵すべからずであって、ドライバーなんてものは所詮いつ売り上げを誤魔化すかも分からないような油断ならない存在なのでしょうね。残念ながらそれが偽らざる真実だと思います。
不条理な事務作業
私がタクドラを辞めた理由の一つに、あまりに不合理な作業が多いという点がありました。
例えば前述の手書き伝票もそうですが、運転手が必ず作成しなければならない書類の一つに「運転日報」というものがあります。これには入出庫の時間やその時のメーター・給油量などに加えて、毎回のお客様について乗車時刻・降車時刻・男女別人数・乗車地・降車地・営業方法(流しか無線配車か)・運賃・高速料金・支払い手段・識別ID 等々の項目を漏れなく書かねばなりません。
特に面倒なのが乗車地・降車地で、「△△市〇〇区××町1-21」みたいに番地まで細かく書く必要があります。まあその情報自体は車内に備え付けのタブレットを見ればデータで全部分かるので書くことは書けるのですが、じゃあ手書きする意味ないじゃん!! 事務所で勝手にそのデータをプリントアウトしたら済む話じゃん!!、って誰も思ってても言わないんですよね・・・
みんな黙々と文句ひとつ言わずにタブレットの情報を1字1句きちんと日報に転記してました。もちろん車を止めて、貴重な「休憩」時間に。
これをお客様の数だけ繰り返すのです。たとえ1メーターのお客様でも同じです。1出番あたり少なくても20件、多い日は30件以上になるので作業量もバカになりません。
更に決済手段が現金でなかった場合、日報とは別に1件ずつ個別の伝票を作成するのですが、なんとここにも乗車地・降車地など、日報とほぼほぼ重複する内容をもう一度書かねばなりません。もちろん手書きで。いやもうアホかバカかと・・・今時こんなムダな作業をしてる企業はそうはないと思います。役所でもやらないんじゃないでしょうか。
どう考えても無駄に手間と時間ばかりかかる不合理な処理ですが、なぜ改善しないのかというと、結局こうした作業はドライバーの無賃労働として行われるので、会社本体の業務効率には全く関係ないからです。
私はこれも結局は会社がドライバーを守るべき「社員」ではなく、売り上げを稼ぐための手段つまりは外部の「事業主」であると考えていることの証だと思います。
単なる社外の取引相手であれば、そこでどんな不条理で煩雑な作業を強いられていようが、会社には関係ありません。会社からすれば、これまでどおりのやり方を温存するほうが自分たちの手間はかからないし、きっちり自社に売り上げを持ってきてくれさえすれば、社外の一事業主風情の事務負担なんて知ったことではない。本音を極論すればそういうことなんだと思います。
多分ベテランの人たちも当然何かしらのことは思っていたと思うのですが、余計なことを言っておいしい案件がもらえなくなってもバカを見るだけなので、賢い人ほど会社には何も言いません。
またベテランの人たちはもともと予約や法人案件など会社がくれる単価高めの案件中心で売り上げを立てられるので、流し営業メインの新人に比べると1日の営業件数は圧倒的に少ない場合が多く、新人ほどの負担感はないという事情もあります。
私もよほど事務所に改善の提案をしようかとも思ったのですが、単なる外部の「一事業主」に過ぎない新人ドライバー風情が事務所に波風立ててまで口出しするようなことではないし、こっちとしてはそんなことにムダな労力を使うよりも別のまともな環境へ移るほうが手っ取り早いですからね。。。
まあその辺はお互いさま、ってとこでwww。
コメント