「タクドラは稼げる」は本当か
求職活動をしているといやでもよく目にするのが「頑張り次第で年収600万円以上可能」「平均月収30万円以上」「賃率60%以上!!」といったタクシー各社の派手なPRです。
本当にそんなに稼げるの? と思う方もあるかもしれませんが、これらは嘘ではありません。私自身はそうした領域には全く手が届きませんでしたが、実際にそうした待遇を得られている先輩方を少なからず目にしましたので、少なくとも嘘ではありません。
ただしこうした好条件には全部裏があります。
まず年収500万円などというラインに届くのは早くても二年目以降、それも大手グループの会社で本採用になり、会社から固定の優良予約客や法人案件をもらえるようになってからです。特にコロナ以降の落ち込みはひどく、流し営業やアプリなどを頼りにしているうちはどれだけ頑張っても月収20万前後、年収400万円あたりがいいところです。
ちなみに社内研修ではやれ左折メインの法則だの、やれ空車の後を走るなだの、さも流し方の工夫次第で営業収入はどんどん伸びるようなことをおっしゃいます。また未だにYout●beの動画なんかでもあたかもドライバーの経験値と腕次第で青天井で稼げるぜみたいな無責任な情報を垂れ流してる人材屋さんもいますが、コロナ後の世界ではお客様がいないときはどこを走ってもいません。
いないものはいないのです。
私も募集説明会では「うちはコロナ後もせいぜい1割くらいしか売り上げ落ちてないから全然大丈夫ですよ」などと甘いことを言われましたが、それは会社からおいしい予約案件や法人の固定客・ハイヤー仕事をもらえるベテラン勢に限った数字です。
流しとアプリだけで収益を上げなければならない新人のうちは、朝も夜も土日も祝日もなく走り回って手取り月収20万にも届かないのが現実です。短期で考えるなら賃率のいい中小の会社の方が待遇がよかったりするケースもありますので、緊急避難的な転職先として考えるなら大手よりもむしろ中小系のほうがよいかもしれません。
求人広告や面接では嘘は言いませんが、会社に都合の悪い部分も言いません。情弱はどこの世界でも強者の食い物にされるだけです。そうならないためには(このサイトも含めてですが)他人からの情報などを鵜吞みにせず、全て自分の目で見て確かめるしかありません。
新人は辛酸なめ男
タクドラの新人は本当に理不尽なことばかりです。
安定的な売り上げを見込める予約客や法人の優良案件は一切任せてもらえない一方、迎車先が路地裏だったり遠方だったり予約時刻の指定があったりする割に乗車距離はあまり伸びない(=売り上げにならない)個人や地域の飲食店からの泥酔客の案件(俗にいう「コスパの悪い案件」)は新人に優先的に割り当てられます。
それで緊急事態宣言中の人気のない町を眠い目をこすりながら一晩中走り続け、ろくに売り上げもないまま時間ぎりぎりまで流して営業所に戻るのですが、会社からの予約案件で早々に売り上げを立てた先輩方が「昨日は売り上げ7万くらい余裕でいったんちゃう?」などと軽口を叩き合いながらとっくに洗車まで済ませて帰り支度をしてたりします。
いやこっちは税込みで2万円にすら届いてないんですけど! そもそも町にだれもいないし!
それでも新人は所定の時間きっちり営業したかどうか、ドラレコも運転記録も後で全部チェックされるので、たとえ全く客がいない状態であろうがひたすらハンドルを握り続けるしかなく、全く気の休まるタイミングなんてありません。
ちなみに車が停止状態の時間は自動的に休憩時間にカウントされます。さらに言うと休憩時間は全部「休憩」できると思ったら大間違いです(別記事参照)。
法律の規定で1出番あたり必ず3時間は「休憩」を取るように言われますが、4時間を超えると逆に休み過ぎになり怒られます。新人は客がいようがいまいがとにかく走り回れ、ということらしいです。
そして営業収入の少ない新人のうちはいわゆる「保証給」が頼りですが、これもくせもので、求人サイトなどではいかにも「この額は必ず保証するので安心ですよ」とばかりに宣伝していますが、実際には様々な条件があります。
私の会社では無事故・無違反・ノークレームは当然のこと、ハンドル時間(どれだけの時間運転してたか)や営業回数(何組お客様を乗せたか)などこまごまとした条件があり、一つでも欠けると保証給は出ませんでした。この条件は要するに「いやそんだけ満たせるなら普通に保証給以上の収益は余裕で上がるよね」というような内容なんですけど、それって保証の意味あんの・・・?
あと私の会社ではコロナ禍以降、通勤手当が出なくなったことも地味に痛かったです。
まあこの点についてはそれを分かったうえで就職したので文句は言えないのですが、隔日勤務の場合は通勤定期買ってもペイしないので結局毎回切符で乗るハメになり、毎回数百円ずつでも13回往復したら・・・余裕で月1万円以上の出費です。手取り20万にも全然届かない給料でこの出費は正直痛いです。
そして当然のことですが、本来非課税扱いである通勤手当が出ないということは、その費用は当然税引き後の純粋な手取り収入から払わなければいけないわけで、普通に通勤交通費が出る場合と比べると税金面でも圧倒的に不利です。
だって本来経費で落とすべきものをわざわざ税引き後の利益から払うわけですからバカバカしいことこの上ありません。
てゆうかそもそもが歩合給なんだから、元々「交通費」といっても歩合給の一部を名目的に交通費に振り分けていただけにすぎず、「交通費」を計上してもしなくても会社の出費は変わらないはずですが、多分その辺の給与事務のイロハも分かってない頭の悪いトップが指示したんでしょうかね。まじでアフォですわ。
まあ確定申告すればいいのかもしれませんが、このためだけにやるのもねえ、というくらいの微妙な額なんですよね。(※確定申告は実質不可能です→別記事参照)
この辺り、入社時の説明資料では「通勤回数が少ないのでお財布にも健康にもやさしい」などと強弁していましたがwwww、何をかいわんや、物は言いようとはよく言ったもので笑ってしまいました。
できることなら通勤手当くらいきちんと出してくれるまともな会社を選ぶにこしたことはありません(自戒)。
電車通勤は地獄
ついでなので通勤に関して言うと、「隔日勤務ならラッシュアワーを避けられるので楽ですよ」などという誘い文句も言われますが、これも全くの嘘というわけではありませんが、かなりの部分フィクションです。
ラッシュアワーを避けられるのは確かに事実です。隔日勤務の出勤時間は昼過ぎ、退社時刻もお昼前後になることが多いので(研修中を除く)、確かにラッシュアワーでもみくちゃにされるようなことはあまりありません。
しかし都心部行きの電車はラッシュアワーでなくても大抵座れません。電車はガラガラでも座席はちょうど満席がデフォだったりします。
それからタクシードライバーには想像以上にたくさんの荷物があるということも知っておくべきでしょう。
まず、一般的に運転手には個人のロッカーなんてありません(私の会社では更衣室に共用のスチール製ハンガーが何台か転がってるだけでした)。貴重品はもちろん、地図やその他の荷物一式(着替え、釣り銭ボックス、一晩走り回る分の水分や洗車用具など)を全部リュックに入れて持ち運びします。
まあ飲み水は最悪お金で解決できなくはないですが、釣り銭に関しては絶対に準備が必要です。普通の財布でもちょっと小銭が増えただけでかなり重く感じると思いますが、タクシーの釣り銭ボックスには10円、50円、100円、500円の各種硬貨をそれぞれ2,30枚ずつ用意します。これと飲み水(500ml×2本程度)だけで何キロかの重さです。
こうした準備物一式を詰め込むと普通にちょっとした登山並みの荷物になります。
そして隔日勤務の場合、ラッシュアワーは確かに回避できますが、冬~春はいいとしても、初夏~秋口は炎天下の昼下がりの時間帯にこのプチ登山レベルの荷物一式を抱えて出退勤することになります。
普通に地獄です。
なので、運転が苦にならず給与面でも恵まれているベテランの方は早々に車通勤に切り替えている方が多かったですが、この場合従業員用の駐車スペースなんてないので、自分が営業で使うタクシーと入れ替えで狭苦しい営業所にマイカーを置いておくことになります。それはそれで何だかなー、という感じだったので私は最後まで電車通勤でした。
二度と行きたくないです(キッパリ)。
タクドラやるなら長期の覚悟、または緊急避難のいずれかで
私自身は1年にも満たない短期で離職してしまいましたので、こんなことを言っても説得力はないかもしれませんが、半年~1年程度を下積み期間として耐える覚悟であれば、タクドラへの転職も一つの選択肢としてはありだと思います。
実際、ベテランさんになると予約や法人案件などがもらえるので、特段傑出した人でなくても手取り月収30~40万円をもらっている人が普通にいます。そういう人たちがヒーヒー言いながら時間いっぱいまで仕事してるかというと必ずしもそうではなく、会社とうまくやりながらおいしい案件をもらって要領よく稼ぎ、どちらかといえば早めの時間で帰っている人が多かったです。
なので多少のサービス残業やら交通費の自腹やらがあっても自分たちは歩合給で十二分に報われているので、古参のベテランさんが会社に労働条件のことで不満を言うことはほぼありません。そのせいで新人の不合理な労働環境がそのまま温存されてしまうわけですが・・・
会社も新人に対しては勤務内容をこれでもかというほど厳しくチェックしてきますが、ベテランさんになるとよほど極端に休憩時間が長いとかでない限り文句を言いません。
なので運転が苦にならず、半年~1年以上のスパンで長期間腰をすえて下積み期間を頑張る前提なら、タクドラへの転職もありかなと思います。実際、特段のスキルのない中高年が未経験から年収500万以上を実現できる業界なんて他にちょっと見当たりませんし。
あるいは今現在真のブラック企業で極限状態で苦しまれているような方に関しては、緊急避難先としてタクシードライバーへの転身するのも大いにありだと思います。金銭面や物理的な労働環境はともかく、上司やら同僚やらの人間関係的なストレスからはとりあえず解放されますし。
何だかんだ書きましたが、所詮タクシー会社のブラック勤務なぞ交通費を削るとか時間外賃金をケチるとかの貧乏くさい小市民レベルの話です。それで過労〇したとか自〇したなんて話では全然ありませんので。
それに隔日勤務なら平日の日中に再度転職活動をする時間を確保することもできますので、新天地が見つかるまでの腰かけにする程度なら悪くない選択肢の一つだと思います。
ただ私としてはあてもなくお客様を探して町中を流して回るというタクシー特有の営業行為自体が苦痛で仕方なく、またお客様や同僚とさえその時その場限りの行きずり的な関係しか築けないことにこの仕事の限界を感じたので、もう戻ることはないと思います。
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