タクシードライバーの勤務体系

隔日勤務は体にやさしいかって? 何それ本気で言ってんの?

隔日勤務(かくじつきんむ)は確実に体をむしばむ

タクシードライバーとして働く場合、日勤・夜勤・隔勤(隔日勤務のこと)のいずれかになると思いますが、大阪市内はじめ都心部では多くの事業者が「隔勤」を推奨しています。私の所属していた会社でも特段の事情のない限り基本的に隔日勤務で入るようシフトを設定していました。

この「隔日勤務」という日付をまたぐシフトの組み方はタクシー業界以外ではほとんど見たことのない、慣れるまでは(慣れてからも)本当に不自然な形態でした。私はこれが最後まで苦痛で仕方なく、結局この仕事に見切りをつけることになった大きな一因ともなりました。

この業界への転職を考えていらっしゃる方は、まずご自身がこの「隔日勤務」というハードな勤務形態に耐えていけるか、連休期間などに夜通し運転してみるなどして実際に試してみることを強くお勧めします。

転職してしまってからでは手遅れです。

会社にもよりますが、都心部の多くの会社は収益や勤務シフト・車両管理のしやすさなどの理由から隔日勤務を強く推奨しており、日勤など他の勤務形態への事後的な変更は渋られるケースが多いようです。シフトの形態は転職の際に必ず確認するようにしてください。

で、隔日勤務についてですが、だいたい午後~夕方に出勤、翌朝まで乗務して翌日昼前に退勤するパターンが多いです。1勤務で通常の2日分、概ね20時間以上連続勤務することになる過酷な勤務です。

でも転職サイトなどでは「勤務明けは丸一日休める」「休憩時間はしっかり取れるから大丈夫」「公休もあるのでむしろ日勤より休みが多い」「空き時間で資格の勉強もできる」「すぐ体が慣れるので心配いりません」などと、まるで隔日勤務が理想的な働き方ででもあるかのように宣伝されてたりしますが、本当でしょうか?

嘘ではありませんが、もちろんこれには裏があります。

まず「勤務明けは丸一日休める」についてですが、これはそもそも2日分以上働いたのだから勤務と勤務の間に2倍のインターバルがあるのは当たり前で、特段隔日勤務の方が多く休めるわけではありません。

また転職サイトや人材屋などの例示するカレンダーでは勤務明けの日は丸一日休みのように表記して、いかにもタクシードライバーは1日おきに働けばいいかのように説明していたりしますが、前日~一晩中働きづめであることはもちろん、明けの日も納金事務やら洗車作業やらの無賃労働で結局お昼前まで会社に拘束されがちなことには注意が必要です。

またそれが終わっても新人は「営業研修」「安全研修」「車両研修」など様々な名目で行われる社内研修「自主的」に参加することが求められます。もちろん「自主的」な研修なので労働時間にはノーカウントです。これがある日の帰宅は普通に夕方ですが、翌日も普通に乗務するのは言うまでもありません。

それでも一応勤務明けの日は確かに翌日の午後まで長めの自由時間を持てますが、じゃあ何かできるかというと実質家に帰って死んだように眠りこけるくらいが関の山です。転職サイトが謳うように「空いた時間に趣味や資格の勉強もできる」なんて、そんな超人的な体力のある人はいるのでしょうか。だってほぼ休憩なしの徹夜明けですよ? たまにならともかく、そのルーティンがずっと続くのですから。

そもそも隔日勤務というシフトは車という資産をできるだけ小数の労働者で最大限休みなく効率的に稼働させるために考案されたシフトであって、人間の生活パターンのことなんて全く考慮しない就労形態です。

要するに資本効率の論理から生まれた働き方です。

誇りをもって働ける仕事に、なんて言う前に埃だらけの更衣室をどうにかしてほしかったですね。。

大体、隔日勤務という就労形態が本当に体に良い働き方だったら、タクシー業界に限らずいろんな業界で採用されているはずですよね。

そうなっていないということはつまり、そういうことなのです。

私は隔日勤務で働いている間、一日と一日の境目がなくなって、ひたすらだらだらと仕事の時間だけが続くような奇妙な感覚に苦しみ続けました。勤務明けの日も翌日の勤務に備え、ひたすら家にこもって昼寝と間食を繰り返すような状態で、自分の時間をもてるどころか体を壊してしまいました。本当に休めるのは週1日きりの「公休」だけ、それも翌日にはまた勤務です。

そして歩合給のタクシードライバーには土日も祝日もお盆も年末年始のお休みも関係ありません。カレンダーに関係なく3勤務→1公休(実質週休1日)の超絶変態シフトが無限に続くのです。

タクシーに転職を検討されている方は、まずご自身がこの隔日勤務という特殊な働き方に本当に耐えられるのか、よく考えて決めるようになさってください。

タクシードライバーに自由なんてない

かつてはタクシードライバーというと自由な仕事の代表のように言われていましたが、はたして今もそうでしょうか? この点は会社にもよると思いますが、少なくとも大手系の場合は自由などありません。

「会社に縛られない自由な働き方」、そんなものが本当にあると思っていた時代が、私にもありました・・・

まず運転席の上には、ドライバーと車内全体が写るドラレコが設置されています。営業中は常に録画されており、事故・防犯はもちろん、ドライバーの勤務状況や金銭的な不正の有無の確認にも使われています。またGPSで位置情報もピンポイントで把握されており、営業中のタクシードライバーは常に事務所の監視下に置かれています。

まあ仕事の性質上仕方ないといえば仕方ないのですが、仕事中ずっと頭上数十センチでカメラが回っているというのは、決して気分のいいものではありません。何かあれば帰社後にその録画データを見せられることになるのですが、いかに荒い画像とはいえ自分の生え際を見せつけられるようなキモい角度の画像なんて、誰が見たいねん・・・

流しの営業でどこを流すかについては確かにドライバーの自由なので、その点だけで言えば「好きなところへ行ける」と言えなくもないですが、「好きなところ」なんて走っていたら売り上げなんて立ちません。お客さまがいらっしゃるのはたいてい駅の周辺や繁華街、混雑した幹線道路など、要するに普通「こんなところで車なんて運転したくない」と感じるような場所です。(だからこそ安くないお金を払ってまで乗ってくださるわけで。。)

また車は常にネットで事務所とつながっています。いつ何時無線の配車やアプリのお客さまが入るか分からず、たとえ休憩中であろうアプリが鳴った瞬間、誰より早く「了解」ボタンを押し、直ちに指定された場所へ向かわなければなりません。

なので流し営業中でも常にいつ端末がなっても画面を確認できるよう、すぐに車を路肩に寄せて停車できる状態で走るので、のんびり景色を眺めたりする余裕もありませんし、当然好きな音楽やラジオを聞きながら、なんてことも(少なくとも大手系では)許されません。

またタクシーの車両はこちらが思っている以上に目立ちます。軽微なマナー違反程度でも会社にクレームを入れられることも少なくなく、特に(同業者を含む)他の車両から目の敵にされるので、運転中はひと時も気を許すことなんてできません。

うるさい上司ややっかいな同僚と席をならべたりすることはありませんが、だからと言ってタクシードライバーは決して気楽でもないし、自由な仕事でもないということは覚悟すべきです。

タクドラにも無賃労働がある

私が一番違和感を感じたのは、タクシードライバーにも無賃労働すなわちサービス残業が普通にあるということでした。このあたりは会社によって事情が違うので一概に言えないと思いますが、私が所属していたのは一応最大手グループの一角を占める有名企業なので、おそらく同様の慣行が業界内で蔓延しているのではないかと思っています。

もちろんタクシードライバーには法令上就労時間の上限が定められていて、違反すると会社が処罰されるのでそのあたりは他の業界よりも勤務時間が厳格に守られているのは事実です。但し縛りがあるのは「運転時間」、つまり出庫から帰庫までの実際にタクシーに乗務している時間だけです。この時間は機械的に運転記録にしっかり残るので、1分でも規制を超過することは許されません。

でもその前後、つまり出庫前の車両点検や帰庫後の納金・洗車時間は記録に残らない(残させない)ので無制限です。私の会社では帰庫後は真っ先に納金(=帰庫処理)をさせ、洗車等の業務はその後でやるように指導していました。こうすると洗車等の作業時間は残業時間にもカウントされず、会社の経理にやさしいわけですwww

この無賃労働ですが、出庫前の点検で小一時間程度、帰庫後の納金等の事務作業が30分強、洗車(私の会社では洗車機不可で手洗い厳守、水垢も一切残さないように拭き上げせよとの指導でした)に小一時間程度はかかりますので、毎出番ごとに少なくとも2時間以上のサービス労働を強いられていたことになります。

ホワイトカラーの仕事ならまだしも、現場系の仕事でこれだけサービス労働が常態化している業界も珍しいのではないでしょうか。

ただ、これだけおかしな勤務の実態にもかかわらず、現場で会社の方針に不満を持っている人は意外なくらい少なかったです。というか不満な人は(私みたいに)すぐに辞めてしまうので、結果ベテラン勢にはイエスマンみたいな人しか残らないんでしょうね。

で、どうしてベテラン勢が不満を持たないでいられるのかと言うと、給与体系にからくりがあるのですが、その辺の事情はまた長くなるので別記事で書くことにします。

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